上海長興横沙漁港調査報告
2015.11.16
当協議会は、在上海日本総領事館及び水産庁と連携し、現在開発中の長興横沙漁港(水産専用の港湾施設)の視察及びその管理者である上海市長興島開発事務室との面談を平成27 年11 月16 日(月)に実施したので、結果を以下のとおり報告する。
▲横沙漁港の完成予想模型
▲冷凍庫の岸壁側 5万トン、超低温2千トン
1.調査概要
(1)開港時期
平成28 年初めに本格稼働開始予定
(2)ロケーション(添付地図参照)
① 横沙漁港は上海の北側を流れる揚子江の河口にある長興島の東岸に位置している。同島には高速道路が中国本島から海底トンネルで通じており、上海市内から車で30 分ほどで行くことができる。
② 本島の北側には高速道路の橋が架けられており、そこから中国本島の高速道路網に繋がっているため、物流面では至便と言える。さらに、揚子江上流の武漢や重慶への国内輸送も効率的である。
(3)施設概要(敷地面積、約13 ヘクタール、総建築面積180,890 ㎡)
① 市場棟2 階建:26,608 ㎡(市場セリ場、荷捌き場、漁具等保管、飲食店エリア等)
② 加工場棟2 階建:6,480.1 ㎡
③ 第1 冷蔵庫7 階建:44,841.8 ㎡(-55~-68℃の超低温2,000 トン有)第2 冷蔵庫:15,413.6 ㎡(予定)
④ 事務棟12 階建:20,613 ㎡
⑤ 職員、船員宿舎2棟:54,450 ㎡(予定)
⑥ 桟橋:固定桟橋1、浮桟橋3 水深7-8m 5,000 トンクラスの船舶が接岸可能
⑦ 生簀:10,000 ㎡(予定)
⑧ 敷地内未開発地区:7,982 ㎡
注:現在建設中であるため、計画変更の可能性あり。
▲冷蔵庫、岸壁の反対側、検疫が常設
▲桟橋は固定式1か所と浮桟橋は3か所。水深は7-8mで5千トンまで接岸可能。ガントリークレーンは無い。本格稼働は16年初め。
(4)通関手続き
① この港湾は水産物専用として開発され、水産専用港湾施設としては中国唯一の1級港湾の位置付けとなっている。よって、貿易港に不可欠な4 機関が常駐している。すなわち、海事局、移民局、商検局、税関、それぞれの出先機関が存在し、水産物に手慣れた担当官により滞りなく手続きが進められることで24 時間365日迅速な通関が可能とのこと。
② 他の港湾からの保税回送は容易にできる。ただし、回送費用の負担軽減などの補助は無い。韓国やマレーシアは水産物専用の運搬船を確保し、直行運便を検討している。(大型外航コンテナ船は入港できないし、上海での2 港揚げは現実的でない)
③ 鮮魚通関は、他の漁港と同様、基本的に10%の確率でモニタリング対象。モニタリングに指定された貨物は3日間留置き。活魚は、回収体制を取ればモニタリング対象貨物でもデリバリーできるが、鮮魚は不可。
(5)その他
① 海上輸送の水産物の輸入に注力する。
② はじめのうちは水産物の需要が年間85 万トンある上海への供給を中心としつつ、将来は全国へ供給拡大する意向。当漁港で年間25 万トンの取り扱いを目標としているとのこと。
③ 当港湾の活用を増やすべく、上海市長興島開発事務室は韓国、ニュージーランド、オーストラリア、(マレーシア)、台湾、ベトナム等の政府と協議開始している。その結果、例えば、台湾高雄からの直行フェリー就航が決定している。
2.今後の対応
本意見交換の場で、当協議会と長興横沙漁港の管理者である上海市長興島開発事務室が今後も継続的に協議・情報交換を実施していくことを確認したため、当協議会としては、本漁港を利用するに当たっての課題(鮮魚の10%モニタリング検査等)の解消に向けて積極的に協議を進めてまいる所存。
▲面談風景
▲金網の向こうは加工車間で、その奥が事務所棟
3.所感
① 当漁港には、桟橋にコンテナ積み下ろしの為のガントリークレーンや、鮮魚水揚げのためのコンベアなど設置されていないため、トランパーによる冷凍魚の陸揚げが主となると推測される。また、大型外航コンテナ船の接岸が難しいため、他の港からの保税回送で物量を稼ぎたいという戦略と推測される。
② 上海には既に2つの港湾が存在するが、上海市の北東の沿岸に位置する外高橋港は、水深が10m程度で、大型コンテナ船の着岸は満潮時に限られる等の課題が出ている。
一方、上海市の南東沖32 ㎞にある洋山港について、水深は深いが、コストが高く、荒天の時に機能不全となる等の課題がある。現在、上海はコンテナ取扱量が世界一となっているために、既存の2つの港湾では、既に取扱量の限界に近くなっていることで貨物の迅速な通関の妨げとなっていることが、当漁港の建設に至った背景にあると推測される。